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アベノミクスは経済政策の答になるのか。大阪にて、22日に経済講演を実施。必要なのは、日本の課題解決に向けて政策そのものを「維新」すること。


 


 21世紀をまなぶ会での経済講演も第17回目となりました。
 今回のテーマは「アベノミクスで日本経済はどうなるか」。緊急経済対策や補正予算、2%のインフレ率目標などを巡り、その効果と副作用を論じながら、日本に必要なのは政策の軸のイノベーションと、それに即した政治の対立軸の創造であることを示しました。

 

●欠けているのは経済のストーリー

松田まなぶの国会での初仕事は、緊急経済対策を受けて提出された補正予算の審議になりました。そこで今回は、アベノミクスに対して国会で何を議論しなければならないかを中心に、経済講演を行いました。

まず、「日本再生に向けた緊急経済対策」10.3兆円を盛り込んだ今回の補正予算については、デフレ克服に向けた、応急の総需要の追加策だといえます。しかし、おカネを出すことよりも重要なのは、おカネが回ることです。

公共事業の拡大は必要ですが、その経済波及効果はほとんどなくなっています。経済成長率を公共事業で上げようとすると、今後、毎年度に公共事業費を増加し続けていかねばなりません。これに頼ってしまうと、経済を政府依存症に陥らせる麻薬になります。公共事業で経済を回復させる効果は、極めて短期のものです。

必要なのは、個人や企業に滞留している凍結金融資産を民間需要の支出へと引き出していくためのストーリーです。

しかしながら今回の対策は、90年代から何度も繰り返された、どこかで見てきたような対策です。総花的で、相互の脈絡が不明確なままメニューが羅列されていますが、総体としていかなる道筋なのか、メニューの個別項目が有機的に繋がり、個人や企業の消費や投資を持続的に拡大させていくことになるのかが見えてきません。もっと骨太な「組み立て」が必要だったと思います。

政策が示すべきなのは、生産や雇用、消費や投資を循環させるストーリーです。

それは、日本がどのような国をめざし、人々は何を価値や生き甲斐と考えるのか、社会の新たなニーズに応え、それに即して需要を掘り起こしていく道筋のことです。


●「賢い」財政支出へ

同じ政府支出でも、その中身こそが重要です。グローバル化した経済構造のもとでは、公共事業といったモノへの支出よりも、ヒトへの支出のほうが経済効果は大きくなっています。震災後、公共事業の世界では人手や資材の不足も目立っています。人々のニーズも変化しています。例えば、政府投資を社会保障の基盤強化に振り向け、人件費の塊である病院や福祉事業への支出に回せば、それは直ちに地域でのおカネの流れを促すでしょう。社会保障分野は人手不足が深刻です。超高齢化社会を迎える日本にふさわしい内容に、政府支出を抜本的に組み替える覚悟が要ります。

そもそも、建設公債の対象となる財政支出(財政法第4条公債発行対象経費は公共事業費、出資金及び貸付金の財源に限定)は、見直しが必要ではないでしょうか。日本にとって必要な「資産」の中身は、物理的なハコもの以外に大きく拡大しています。政府投資は「未来に向けた投資」でなければなりません。その観点から、政府投資の「資産性」をよりしっかりと判定すべきです。

政府投資が従来型のハコものに偏ると、経済対策が時代のニーズからズレてしまいます。政府支出の拡大が古い経済構造を温存・拡大することになります。

必要なのは「強く、賢い」経済財政運営です。政府投資にも戦略的投資を実現するための「維新」が必要です。そのために、財政には、資産価値を見極めてバランスシート管理していく発想が必要です。日本維新の会が提案している「複式会計」は、その手段となるのではないでしょうか。


●国家の夢を描くのが維新

総選挙で自民党は「日本を、取り戻す」を掲げましたが、どのような「日本」を取り戻そうとしたものなのか分かりません。今の日本に必要なのは、時代に合わなくなった「戦後システム」を組み替えて、日本が持つ潜在パワーを引き出していくためのシステム再設計です。日本らしい日本を取り戻すために、むしろ必要なのは、新しい日本への展望です。

これからの国家の希望とは何かを描き、それに向けたストーリーを示すことで、「日本力倍増」へと人々を動かす。そのために必要な制度や仕組みの抜本的な立て直しを政治が実現しようとするのが「維新」だと思います。

こうした展望と整合的につながる対策であってこそ初めて、真に時代のニーズに即した需要が創造され、次の成長軌道につながるような対策になると思います。

かつて安倍総理は「美しい国」を掲げましたが、国家の将来像への展望なき経済対策であっては、アベノミクスも一過性の美しい線香花火に終わってしまうでしょう。


●2%の物価目標は本当に大丈夫なのか?

金融政策もアベノミクスの長期展望性の欠如を示しています。

インフレ率2%は国際標準だとされますが、現代日本での2%の設定には無理があるかもしれません。労働力人口が減少している中で、実質経済成長率は平均して1%を続けるのがやっととされるのが今の日本経済ですが、少なくとも何年間か、2%以上の実質成長率を継続しなければ、インフレ率は2%に到達しないとされています。

家電製品やデジタル機器などでは、技術革新で価格が10分の1まで下がっているものもあります。全体として2%のインフレ率にもっていくためには、そうした品目以外の品目で2%をはるかに上回る物価上昇が必要です。特に食料品や生活必需品といった、需要の価格弾力性の低い品目の価格が大きく上がってしまえば、実質所得は下がってしまいます。「2%」が実質的にはどの程度のインフレ率なのかを考えないと、日本経済は事実上のスタグフレーション状態になる恐れもあります。
 経済の生産性が上昇しなければ賃金は上昇しません。十分な生産性上昇なくしては、物価の上昇は実質賃金の低下になります。



●大事なのは物価ではない




 そもそも物価を政策の目標にしていいのかという問題もあります。物価が目標になるのはインフレ抑制の局面です。デフレ経済のときは、目標は名目経済成長率ではないでしょうか。「物価は経済の体温計」と言われるように、物価の上昇は実体経済の帰結として起こるもので、物価上昇率そのものに意味があるわけではありません。物価が下落し続けることで景気が悪化し、その結果と物価がさらに下落し続ける「デフレスパイラル」が問題なのであって、その処方箋は景気を良くすることで物価の下落を止めることです。



●日銀だけではマネーも増やせない。

政府と日銀の「共同声明」では、日銀が2%のインフレ率目標を掲げることが合意されましたが、日銀単独でマネーサプライを増やすことはできません。中央銀行が相手にしているのは金融市場です。

「非伝統的」な手段で日銀が国債などを金融機関から買って、銀行におカネを供給することはできますが、そのおカネを銀行が貸し出しに回さないで中央銀行に準備預金として積み上げたらどうなるでしょうか。中央銀行のバランスシートが資産と負債の両建てで拡大するだけで、市中のおカネ、つまりマネーサプライは増えません。

現に、日米欧が近年、経験したのはこのことでした。1999年以降、日銀はマネタリーベース(銀行券と準備預金で、中央銀行が操作できるおカネの量)を2倍ぐらいまで拡大させましたが、この間、マネーサプライ(市中の現金と預金)は2割ぐらいしか増えていません。米国もユーロ圏も、リーマンショック以降、それぞれマネタリーベースを3倍ぐらいまで大きく拡大させましたが、マネーサプライはいずれも3割ぐらいしか増えていません。

つまり、中央銀行のその先の民間金融部門が活発に信用創造をしなければ、マネーサプライは増えないのです。そして、銀行からカネが出ていかないカネ詰まり現象の背景には、銀行が貸付をできるだけの収益性のある資金需要が少ないという銀行側の言い分と、銀行が貸さないから収益性のある事業が成り立たないという借り手側の主張が、「卵が先か鶏が先か」の関係で並立しています。

加えて、マネーサプライが増えても、物価が上昇するとは限りません。そのおカネが金融資産を拡大させる方に向かってしまえば、フローとしてのマネーは平均的な流通速度が落ちて、資産ストックが増えるだけという結果になります。日本では「凍結」金融資産が積み上がっています。家計や企業がおカネを活発にフローの支出に回さないと、実体経済は拡大せず、名目成長率も上がりません。



●政府も共同責任

結局、マネーサプライ拡大を通じて物価を上昇させることは中央銀行の手に余るということになります。インフレ率目標の達成は日銀の責任の範囲を超えます。「責任と権限」は一体であり、物価目標は、名目成長率の引上げに向けた政策手段を持つ政府との「共同責任」とすべきものです。「共同声明」とは「共同責任」を意味するものでなければならないのではないでしょうか。

(この点について、その後、松田まなぶは2月14日の内閣委員会で甘利大臣に質問しましたが、明確な回答はありませんでした。)

●経済財政の破たんへの道

 もし仮に、金融当局の「アナウンス効果」で期待インフレ率が高まったとして、それにふさわしい実体経済の上昇が伴っていなければ、それは長期金利を上昇させるだけです。経済が温まっていく結果としての「望ましい物価と金利の上昇」ではなく、それは悪いインフレであり、悪い金利上昇ということになります。

 先進国最悪の日本の財政は、デフレ経済だから回っています。デフレのもとでの異常な低金利が、金利負担を極めて低いものにしているからです。これが「正常化」して金利が上昇すれば「財政破綻」が起こる可能性があります。

これが意味するのは、金融のカネ詰まり現象です。金利上昇により、金融機関が大量に保有している国債の価格が下がれば、銀行の資産が傷つき、銀行は貸し渋り、貸しはがしに出ることになります。
 先の欧州債務危機と同じメカニズムで、景気はかえって悪化してしまいます。



●第17回の「21世紀をまなぶ会」では

アベノミクスは、@大胆な金融政策 A機動的な財政政策 B民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」とされています。ですが、@は、金融政策では不可能な最終需要の拡大なくしては達成できず、Aは、長期展望が欠如しているもとでは一過性の線香花火に終わりかねず、結局は、Bによってどれだけ民需主導の持続的な実質経済成長が実現するかにアベノミクスの成否がかかっていることになります。

この点については機会を改めて論じますが、もし本当に成長戦略に取り組むなら、日本にとって市場の拡大と海外投資収益確保の一大チャンスにできるTPP交渉に参加しない選択肢は成り立ちません。これを明言できないでいるアベノミクスには決定的な穴があります。

 今回の経済講演では、経済政策に未来への展望を持たせるためにも必要な「政治の新たな軸」についても議論しました。新しい政治の軸とは何なのか。そこに、維新が「野合」ではない、従来の政治の軸を超えた「新結合」であることへの問いかけがあります。

もはや、「右か左か」(保守か革新か)というのは、対立軸としては古くなりました。これからの対立軸は、「前か後ろか」かもしれません。あるいは、「供給者側vs消費者側」という軸と、「既得権益にしがみつく縮小均衡vs新しい枠組みへと前進する拡大均衡」という軸を交差させてできる4つの平面のいずれを採るかという選択肢なのかもしれません。

恐らく、「維新」を単なる変革の運動論に終わらせることなく、次なる「課題解決型」の「組み立て」の局面へと移行させていくことが、日本維新の会の次なる大課題なのだろうと考えます。

●今後の経済講演

第18回は、以下の要領で開催します。

3月9日(土)講演開始16:30

テーマ:どうなる、日本の維新 〜破綻への道、興国への道…新たな国づくりに向けて国政を斬る。〜

会場:大阪市北区中崎西4−3−32 タカ大阪梅田ビル5階の松田まなぶ事務所

お問合せ先:「21世紀をまなぶ会」Tel:06-6375-3331  Fax:06-6375-3341

Eメール: matsuda-pri@kne.biglobe.ne.jp

経済講演は、その他、色々な機会に行っていきたいと考えています。

今後とも引き続き、日本再建に向けて、できるだけ多くの方々とともに、日本の本質的な課題は何かを考え、その解決の道を模索していきたいと思っております。